世界に伍する名古屋 ここはイノベーションが生まれる土壌がある

世界に伍するスタートアップエコシステムのグローバル拠点都市の一つ、名古屋。愛知県知事の大村秀章氏をはじめ、名古屋市長河村たかし氏などのキーマン達に、実際の取り組みや今後のビジョンを聞いてみた。

トヨタ自動車が本社を構える愛知県は、統計指標「製造品出荷額等」が43年連続日本一の圧倒的なモノづくりの集積地だ。中心産業の自動車産業は、MaaS、CASEの進展により「100年に一度の大変革期を迎える」と言われており、今後も愛知県の産業構造の中心となりながら、他の産業への刺激となっていくだろう。

そうした中、愛知県は、今後も産業・経済の成長・発展を続けるために、常にイノベーションを起こしていくことが必要と考え、2018年10月に「Aichi-Startup戦略」を策定。愛知県の大村知事は次のように語った。

「グローバルを見据えたスタートアップ・エコシステムを創る必要があります。そのためアメリカのテキサス大学やフランスの STATION Fなど、海外のスタートアップ支援機関等との連携を強化してきました。さらに、こうしたプロジェクトの中核機関として、インキュベーション施設「STATION Ai」を2024年にオープンします。この「STATION Ai」は、PFI事業者として、世界的なネットワークを持つソフトバンクが選定されました。この施設で、優れたスタートアップを育成するとともに、世界中から人材を集め、グローバルなスタートアップコミュニティの形成を目指していきます」

大村氏と共に
愛知県 大村知事(左)と筆者(右)

​​愛知県の経済・産業の中枢であり、主要な大学、企業が多く立地する名古屋市においても、スタートアップの創出が非常に重要なテーマとなっている。名古屋市はグローバル拠点都市の事務局として、産学官、関係者を取りまとめている。名古屋市の河村たかし市長は次のように語った。

「この地域は世界レベルのグローバル企業が多く、オープンイノベーションが非常に重要になってきます。中部経済連合会と連携し、イノベーション拠点「ナゴヤイノベーターズガレージ」を開設し、優良な地元企業と全国のスタートアップとの共創を促進するプログラムも進めています。本市として特に力を入れているのが、人材育成です。当地域は安定志向が強いともいわれており、小中学生や高校生といった早い段階からの起業家教育を進めています。また、住民に身近な自治体として、社会実証を支援する取り組みを進めています。全国のスタートアップに名古屋で、様々な社会実証にチャレンジしていただいています。産学官の連携により、スタートアップのニーズや成長段階に応じたサポートをしっかりと行っていきたいと思います」

河村氏
河村名古屋市長(右)と筆者(左)

これらのイノベーション創出を支える多くの組織が存在していることも強みだ。以下に、関係者のコメントと共にご紹介しよう。

産業技術総合研究所中部センター

本センターは、磁性材料やセラミックス、軽量金属等の機能部材技術を核に「材料系ものづくりの総合的な研究拠点」を目指し、ゼロエミッション社会などの社会課題の解決と産業競争力強化に取り組んでいます。中部地域でのイノベーションへの貢献のために、全国に11の拠点を有する産総研の総合力を活かすとともに、企業や大学等と密に連携し、産総研独自のスタートアップ創出支援も行っています。また、パートナー企業名を冠した連携研究室(冠ラボ)を配置し、研究成果を早期に実用化する取り組みも進めています。

中部ニュービジネス協議会(CNB)

我々は、当地域におけるベンチャー・スタートアップの育成・振興、既存企業の新事業の創出支援を目的として、中部地区の中小企業から大企業まで幅広い企業が結集し1989年に誕生した協議会です。以来、経済産業省や関係自治体・諸団体と連携をとりつつ、ニュービジネスに関する様々なテーマを掲げ、講演会やフェアを実施しています。また、中部エリアでニュービジネスを実践している企業を公募し、事業の成長性や社会への貢献度などを評価する表彰事業「ベンチャー大賞」の実施など、幅広い活動を積極的に展開しています。

中部経済産業局

VUCA時代において、持続的な成長・発展を続けるためには、企業は飛躍的な生産性向上や連続的なイノベーション創出への取組が必要とされています。そこで、Central Japan Startup Ecosystem Consortium等の地域の関係者と連携し、地域企業の新たな取組を支援するため、新事業創出に向けた意識啓発及びスタートアップとのネットワーク構築、人材育成等を通じ、スタートアップとの協業の加速化に向けた取組を行っています。また、研究開発から事業化・販路開拓、更には生産性向上や事業再構築等、様々なステージにおいて地域企業の挑戦を支援しています。

名古屋商工会議所

我々は、2040年に当地が「イノベーション誘発都市・ナゴヤ」と称されるようになることを目指しております。そのために、現在、中小企業・小規模事業者のコロナショックからの立ち直りを最優先とし、経済回復と地域活性化の推進に加え、生産性向上やイノベーション創出につながる企業のデジタル化に向けた支援事業や100年に一度の大変革期にある次世代産業の育成・振興に取り組んでおります。

名古屋証券取引所

「この国の証券市場にもう一つの選択肢を。名古屋証券取引所は全国の企業がIPOできる証券取引所です。」こちらは、2022年に生まれ変わる当取引所からのメッセージです。当取引所の最大の特徴は、個人投資家主体の証券取引所であるということです。上場企業向けサポート体制には自信があります。例えば、上場企業と個人投資家を結ぶ懸け橋となるイベントを多数開催しております。今後の名古屋証券取引所にご期待ください。

名証での写真
写真左より取締役 鈴木 武久(左)、筆者、営業推進グループシニアマネージャー 鈴木 公子(中央)営業推進グループ長 部長 伊藤 和仁(右)

EY新日本有限責任監査法人

名古屋企業成長サポートセンター 

2021年9月の開設以来、東海地区のアントレプレナー、スタートアップ、ファミリー企業等の長期的な価値の創造と持続的な成長への支援を強化しています。イノベーションにはDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス)が欠かせません。EYのパーパス(存在意義)「Building a better working world〜より良い社会の構築を目指して」のもと、次世代につながるグローバルスタンダードを形成し、新しく豊かで先進的な社会の構築を推進していきます。

EYでの写真
EY新日本有限責任監査法人 名古屋企業成長サポートセンター  松葉由紀子氏と筆者

また、イノベーション創出には様々なバックボーンを持ったイノベーターたちが集まる「場」が欠かせない。そこで、そのような場の提供を行なっている施設もご紹介しよう。

ナゴヤイノベーターズガレージ

「STAND OUT! 尖った人間よ集まれ」保守的な中部圏において、新たな産業や価値を生み出すために中部経済連合会が運営するイノベーション創出拠点です。異業種異分野の交流・対流をベースに共創によるオープンイノベーションで既存企業の次世代ビジネスへの変容とスタートアップ創出や成長を支援しています。交流・対流を促す仕掛けとして、アントレプレナーマインドセットプログラムから実践プログラムまで幅広く展開し、プログラムは年間300回を超えています。

イノベーションガレージ

写真左から筆者、ナゴヤイノベーターズガレージ統括マネージャー 山下 哲央、コミュニティマネージャー 山本 陽平

なごのキャンパス

2019年10月にOPENした「なごのキャンパス」(名古屋市西区那古野)、閉校となった旧那古野小学校をリノベーションした、シェアオフィスやコワーキングスペースが入るインキュベーション施設です。現在は約120法人が入居する施設です。また、学び舎としての歴史を紡いできたなごのキャンパスは、「ひらく・まぜる・うまれる」をコンセプトに、次の100年・未来をつくる人を育む、起業家育成(小・中・高・大)にも力を注いでいます。

なごやキャンパス

なごのキャンパス企画運営プロデューサー粟生 万琴(左)と筆者

OICX-名古屋大学オープンイノベーション拠点

本施設は、産学連携のハブとして東海地区の国立大学を代表する名古屋大学が運営するインキュベーション施設です。自動運転などのディープテック領域から、プラットフォーム・サービス系スタートアップまで、名古屋大学を中心とした様々なジャンルの大学発ベンチャー・スタートアップが入居しています。

最後に、今、名古屋を代表するスタートアップとして注目を集めている3社をご紹介しよう。

OPTIMIND

「世界のラストワンマイルを最適化する」をビジョンに掲げ、企業、業種、国の枠を超えた世界のラストワンマイルを効率化ではなく、人々の心にとっての”最適化”を目指し、配送ルート最適化システム「Loogia」を提供しています。まずは、人手不足や業務の俗人化に悩む日本の物流にDXを起こし、持続可能な配送を支えることを目指します。

U-MAP

スマートフォンやパソコンが熱くなる電子機器の熱問題は、最も重要な社会課題の一つであり、電子機器の冷却が、世界の消費電力の数%を占めるにまで至っています。U-MAPは、独自の放熱素材“Thermalnite”と、大学や企業との強固なコラボレーションによって、この熱問題の解決し、持続可能な世界への原動力となることを目指します。

アイクリスタル

すべてのモノづくりにAIの力でプロセス革命を!「AI×Crystal」に由来するアイクリスタルは、AIを活用してきれいな結晶材料を最短で作るために開発したプロセスインフォマティクス技術を、モノづくりの開発プロセス、製造プロセスの最適化に幅広く応用し、製造業を中心とするさまざまな製品開発を圧倒的に効率化する名古屋大学発AIスタートアップです。ビックデータの蓄積が難しいモノづくりの現場においても 限られた過去データを用いて短期間で解析・最適化を実現します。

アイクリスタル

写真左からアイクリスタル取締役 牧野 隆広(左)、代表取締役高石将輝、筆者、メンバーの皆様

今回、愛知県・名古屋市のイノベーション創出に熱心に取り組む多くの方々にインタビューにご協力いただいた。共通して感じられたのは、これまで製造業を中心に世界に通用する企業を輩出してきた地域ならではの、「もう一度、世界を取りたい!」という強い思いだ。そのために新たな挑戦を始め、まさに転換期を迎える名古屋に引き続き注目したい。